星糞求めて3万年 

2017.09.30 / 地域を知る / 編集部さん

縄文ZINE』という縄文好きの人のための(?)フリーペーパーがあります。
考古学系のフリペとしては、今までにないちょっと破天荒な記事が毎号毎号ずらずらとこれでもかとサービス精神大盛り特盛でぎっしりとつまった一冊です。
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定期的に刊行されていて、最新号の7号が先日発刊となりました。
特集に…「星糞のディスタンス」…

うん、ディスタンスはわかる。
distance、でショ。
でもさあ…なんだろう、「星」だけど「糞」って…

と、思いますが、考古学をちょこっと、特に諏訪地域について調べたことのある人にはピン!とくる言葉です。

星糞と言えば、そう。
星屑が地面にキラキラと降ったように見える、あの場所。
つややかで黒く透き透った、アレ。

そう!
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黒曜石です。

この黒曜石、ガラス質で、割れるとその切り口が鋭利になる特性から、3万年も前から石器に加工されニンゲンは重宝にしていました。

八ヶ岳北部の冷山辺りから和田峠にかけての一帯は黒曜石の一大産地。
霧ヶ峰の東北端にあたる「星糞峠」は黒曜石にちなんだ地名なのです。
下諏訪町にも「星が塔」「星が台」など、黒曜石にちなんで「星」が付いたと思われる地名があります。

この一帯、標高1000メートルを越える範囲に黒曜石の算出が確認できるところは20カ所以上。
国内で最大の生産地でもあります。

同じ一帯でも黒曜石の質は大きく異なります。
こちらは八ヶ岳の冷山(つめたやま)の黒曜石
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白い粒が混ざります。
石器にするには少し大変そうですが、ここでは大きな露頭が確認されていて、かなりの量の黒曜石があったことがうかがえます。
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手前の人物の大きさと比べるとその大きさたるや…。
観光バス3台分、とか。
※よろしかったら過去記事「黒曜石の巨大露頭(茅野市)」も併せてご覧くださいね

こちらは下諏訪町和田峠近くの星が塔の黒曜石。
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混ざりものの少ない、真っ黒な石です。
現地にはいまだこんなに黒曜石が落ちています。
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星が塔では採掘坑が確認されていて、保存が行われています。
びっしりと黒曜石があるのが見えますでしょうか。
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深さは5メートル以上。
今のように重機もなく、金属のスコップすらない時代にいったいどうやって掘ったのか、驚くばかりです。
当時の人たちの黒曜石に対する情熱をうかがえるようです。
※星が塔は国有林内にあり、一般公開はされていません。
年に数回、下諏訪町の諏訪湖博物館等で見学会を行っていますのでご確認さい。
なお、現地では黒曜石を含むいっさいの岩石動植物の持ち出しはできません。

多くの黒曜石は石は現地で採掘された後、おおざっぱに不要部分を落とし加工をされ、各地へ運ばれ、それから目的の石器に加工されたようです。

実は諏訪湖の湖底からも、こんな黒曜石が発見されています。
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石鏃(せきぞく)と呼ばれる形の石器です。

この諏訪湖底ので見つかった石器は、他にはない特徴的な形をしています。
長い脚があるように見えるので、長脚石鏃と言われますが、片方しかないものが多いのです。
未だ使い方ははっきりしていません。

湖底でみつかった多くの石鏃は霧ヶ峰産であることがわかっています。
そしてこの長脚石鏃でしかも片脚の石鏃は、遠く奈良県や新潟県北部で見つかっていることから、当時の人々は何らかの交流があったことがわかります。
さらに、諏訪湖では諏訪にはない石で作られた片脚の長脚石鏃が見つかっています。

もしかしたら、諏訪湖というランドマーク目指して黒曜石と加工技術を求めて全国から人が集まってきたのかもしれない…
そんな考古学者の説もあります。

遥か昔の「諏訪ブランド」、黒曜石。
黒いつややかなお星さまは、名実ともに昔の人の希望の星でもあったのですかねえ。

『縄文ZINE』は諏訪地域の以下の場所で入手できます(2017年9月30日現在)
・茅野市尖石縄文考古館
・茅野市民館
・諏訪書店
・岡谷市美術考古館
…など

(ふり)

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