黒曜石の巨大露頭(茅野市)

2016.11.09 / 地域を知る / 編集部さん

北八ヶ岳から霧ヶ峰、和田峠にかけての一帯は黒曜石の原産地として有名なエリアです。
真っ黒なガラス質のこの石は、割れると鋭い角ができて、切れ味のよい刃物として旧石器時代にはそのように加工され、この諏訪地域から日本列島各地に流通していたようです。

茅野市にある大きな産地のひとつ、「冷山(つめたやま)」
歴史の好きな人なら一度は聞いたことのあるこの地名。
山の位置は登山地図でわかりますが、実際どこで採掘されていたのか具体的な場所を明らかにしている資料はあまりありません。

それは、現地がまだ未整備で誰もが訪問するには少し困難な場所だからです。
十分な調査がなされておらず貴重な遺構が眠っている可能性もあり、誰もが訪問し黒曜石が多量に持ち出されたりするようなことは好ましくありません
残念ながら、この記事中でも場所を明らかにすることができませんが、地元の研究者たちと同行させていただけましたので、ほんの少しだけご紹介いたします。

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北八ヶ岳によくみられる、コケの豊かな針葉樹の原生林。
ウラジロモミやシラビソが優占する森の中にほんのわずかに残る林道を抜けていきます。
山をよく知った方でも、少し戸惑うようなルートです。
目印は赤いテープ。
これがなければどっちを向いても同じような景色に、あっという間に自分の位置を見失いそうになります。
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それにしてもコケの美しい森。
空気もしっとりとして、緑のいい香り。
澄んだ空気につつまれて、自分のココロも洗われるようです。

道なき道の先に
「ほれ、あそこだ」
と、大先輩の指さす先には…

事前に「観光バスが地面に刺さっているような大きさ」とは聞いていたものの…
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誰もがその大きさに圧倒されます。
今そこに見えている岩の壁が、全部黒曜石!
その姿は、たぶん古代からほとんど変わっていないだろうと推測されています。
長い年月の間に表面は風化し、コケや地衣類に覆われ、灰色の大きな塊に見えますが、まぎれもなく黒曜石です。
そして付近に転がる小石や岩もほとんどが黒曜石。
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ただ、予想と違ったのは、この冷山で見られた黒曜石はそのほとんどが気泡やパーライト(黒曜石が高温で熱せれ発泡した物質)が混ざり、透明で大きな塊のものがあまり見られなかったこと。
現在ここに見られる黒曜石は、霧ヶ峰や和田峠で産出されるものよりもろく加工も困難そうなものばかりでした。

もしかすると、良質なものはすべて運び出され、今私たちがここで目にしている黒曜石はいわば残り物なのかも知れません。
ゆえに、この巨大な露頭が掘りつくされずに残った可能性もあります。
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こんな風に筋の入ったものもあります。

ここを訪れた昔の人たちはいったいどんな風に活動していたんだろうか。
どこからきて、どこへ黒曜石を運び去ったのだろうか。
どこでどんな風に加工をしていたのだろうか。
疑問は尽きません。

後ろ髪を引かれるように、巨大露頭を後にしました。
一応、地図で場所は解ったものの、もう一度一人でいかれる自信はありません。
いつかまた訪れる機会を楽しみに待ちたいと思います。

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