スクラッチタイル探訪 (諏訪市&岡谷市)

2015.09.29 / 地域を知る / 編集部さん

「スクラッチタイル」というのは、櫛でひっかいたような模様が入っているタイルのこと。

主に建築物の外壁の装飾に使われます。
現代の建物に使われていることもありますが、昭和初期、このタイルを使った建築物が盛んに作られています。

明治時代から盛んになった製糸業は、諏訪地方に莫大な富をもたらしました。
岡谷市(当時は平野村と呼びました)が国内総生産の6割を叩きだしていた時代もあるほどです。
西洋式のものを盛んに取り入れ、それは建物のデザインにも反映されました。
諏訪地方にデザイン性豊かな近代建築が多く見られるのはその名残でもあります。
スクラッチタイルを貼った建物もそれらの一つです。

これがスクラッチタイル(破片)。
このタイルは伊那市高遠の「丸千組(まるせんぐみ)」という高遠焼の窯で作られたものです。
もともとは高遠藩のご城下で器などを作っていたようですが、明治時代には日用品や製糸工場で糸取りにつかう「繰り糸鍋」をつくるようになりました。
そして昭和に入り、諏訪湖畔に 森山松之助の基本設計で片倉館の建設計画がはじまりました。
その時、片倉館の外壁につかうタイルが高遠の丸千組に発注されました。
この破片はいわば彼らの兄弟。


さて、いくつかの建物をこのタイルとめぐってみることにしました。

まず最初は片倉館。

言わずと知れた、諏訪市内でも有数の観光名所。

昭和3年築国重要文化財です。
この建物が素晴らしいのは、アシンメトリーでありながら絶妙なバランスのデザインだけではありません。
温泉施設として今も一般の人にも利用されている、いわば“現役”であること。
建物随所にも、本当に丁寧に作られたのだなあという細やかなデザインがありありとみられます。

レリーフとか。

諏訪湖側はシンメトリー。(煙突除く)

現役のタイルたち。


ね。スクラッチの模様がよく似てる。
なんと、87年ぶりの再会!

諏訪市内には国道沿いを中心にこのスクラッチタイルを使った建物がほかにもあります。

 

茶屋小口商店


ここはスクラッチタイル物件という魅力もありつつ、なんと屋根は諏訪地方独特の鉄平石葺き。
昭和10年築。
(ちなみに右隣りの蔵造りの建物は、現在の八十二銀行の前身の第十九銀行。)

諏訪味噌組合事務所


ここも現役の事務所として活躍中。
昭和初期の建築(詳細不明)
タイルは丸千組のものと同じではないけれど、これもスクラッチタイルです。
ちなみ味噌組合の建物ができる前までは、「旅館布半」がありました。(今は湖畔に移って「ぬのはん」となっています。もともと湖畔は別館だったのだそう。)

ほかにも丸柳大津屋さんの倉庫(昭和12年築)もスクラッチタイル物件です 。

そして岡谷市にも。

…って、がーん。外壁の補修工事中…。
旧岡谷市役所庁舎
昭和11年築

なんと、岡谷市誕生のときに個人から寄付されたものだそうで…
(このあたり、当時の岡谷の製糸業がどれほど勢いのあったものかと思い知らされるエピソード…)

度重なる外壁の補修のためか質感は違って見えますが、この岡谷市庁舎も高遠の丸千組のスクラッチタイルを使っています。

この後、時代は急速に不景気に陥り、生糸価格の暴落により製糸業はすたれやむなくほかの産業に転換していきます。
高遠の丸千組も製糸業の衰退とともに製品が売れなくなりやがて閉鎖します。
いくつもの時代の転換期を見てきた建物たち。
スクラッチタイルのからも、そうした時代の流れを垣間見ることができます。
(か)

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