山麓の狼を尋ねて 其の弐(原村)

2020.05.31 / 地域を知る / 編集部さん

原村にも「狼」の痕跡があると聞いて、ネットの海を探すとヒントがいくつかありました。

原村菖蒲沢地区に、3つの鳥居が並ぶ森があります。
「御鍬(おくわ)の森」と呼ばれる一角です。
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きれいに草刈りがされています。
「菖」と書いた札は、境界改めの印なのでしょう。
管理は菖蒲沢の地区の方がしていると思われます。

3つの鳥居のいちばん右、「御鍬社」と扁額が掲げられた奥に…おられました。
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小さな石祠の背後に、御柱に囲まれてちょこんと。
想像していたよりも小さく、お顔立ちもやさしい印象です。
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微笑んでいるようにも見える、この石造物、一応「お犬様」とされています。
それでもこの姿…キツネに見えるのは私だけなのかしら…。
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うーん…まあ、確かに尻尾は巻いてるし…でも足の爪とかないし…
(正直ビミョー…な。)
それでもピンと立った耳が、すこし精悍なイメージを与えてくれます。

もう一つ、中新田北の「庚申の森の金毘羅様のところ」にあると聞いて、こちらにも。
道路から一段高い丘の上、墓地の奥に見える鳥居を目印に近寄りました。
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これは!
お顔がとってもややコミカルだけど、まごうことなくオオカミだ!

まずは表情に惹かれます。
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まんまるの大きな目、大きく割けた口から見える明らかに肉食動物の尖った歯。
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そして鋭い足の爪。
前脚の間には「三峯山」と刻まれ、これは明らかに三峯信仰、神の使いの狼で、しかも中新田地区の入り口にあることから、悪いものが村に入らないように願って作られたものかもしれません。
石造物に「嘉永二己酉年」とあることから1849年の制作と思われます。
これはなかなかの出来栄えです。
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ちなみに後ろ姿もぽってりと丸みを帯びていてキュートです。
尾は胴体の左側に巻きつく形で先の方で台座と一体化しています。

ほかにも寛政三年十二月の「原山入会地髑髏一件取替証文」という古文書に「去年柳沢新田ゟ(ヨリ)二三拾丁東中屋内ト申所、出家狼ニ被喰候様子髑髏斗并衣類等切雑物等有之、穴山新田江為知候者有之、…(後略)」(柳沢新田の入会地境あたりで、オオカミに食われた身元不明の出家が髑髏となり衣類も落ちている…)
と、狼が登場します。

こうしてかつての狼の痕跡を追っていくと、を江戸時代中期、八ヶ岳山麓にはオオカミの気配がだいぶ濃かったことがうかがえます。
山麓をも駆け巡りヒトに被害をもたらし、畏れると同時にその強力な力を信仰の形として借りた人々の暮らしぶりを伝えるこれらは、オオカミのいなくなった現代のひとにとって貴重な歴史の証人であるのです。
(ふり)

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