筒粥神事 (諏訪大社下社春宮)

2017.01.22 / 地域を知る / 編集部さん

1月14日、20:00。

吐く息は真っ白に、時折雪が舞い、今シーズン最も冷え込んだ日。
厳寒の諏訪大社下社春宮境内にはぽつぽつと人が集まっていました。
幣拝殿と筒粥殿には灯りがともります。
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筒粥神事とよばれ、今年の農作物のでき具合や世の中の吉凶をうらなう、諏訪大社の年中行事でも大きなもののひとつ。
古式をとどめるとされ、上社では衰退してしまった神事でもあります。

幣拝殿の修祓式のあと、清められた米と小豆が三方に載せられて、神職の手で筒粥殿に運ばれます。
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筒粥殿には炉を囲んでワラ布団。
神職が座り、非常に原始的な方法で火をおこします。
板にウツギの棒できりもみをし、約20分。
(もっと早く起こる時もあれば、過去には1時間近くかかったこともあるようです。神職さんの技術もですが当日の天候も大きな影響があるとのことでした。)

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火がおこると炉にうつし、釜に水と米と小豆がうつされます。
そして43本のヨシの茎を束ねたものが入れられます。

そして長い大祓詞を10回、神職が唱和します。

「高天原の…」からはじまる大祓詞は1回が約4分ほど。
時折薪や釜の水を加え、大きなしゃもじで焦げ付かないように撹拌します。

唱和が終了すると当番の神職を残し、宮司・権宮司らが筒粥殿を退出します。

釜の中身がどーなっているのかキニナル私。
他の見学者と筒粥殿をそわそわとのぞき込んだりしていたところ

「どうぞ、中へ」
とお声掛けをいただきました。

えっ、えっ。いいんですか?

「いいですよ」

お許しをいただき、他の数名の見学者と共にワラ座布団に座りました。

「コゲつかないようにまぜるんですよ。釜の底をぬぐうように。…この段階で筒の中入る粥の量もだいたい決まってきます」

(ほおおお、それはセキニン重大なお役なんだなあ)

「ハイ、あなたもどうぞ」

へっ?私もいいんですか?

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どうやらこの神事は見学だけでなく、一般の人もお許しをいただければ直接参加できるようです。
私と同席した幾人かは、毎年見学に来ている常連さんのよう。
慣れた手つきで粥を混ぜています。

そのうちに近隣の氏子さんと思われるかたがやってきました。

「やあやあ、ご苦労だなぇ。」

と、差し入れは一升の日本酒。
どうやらコレであったまりながら粥の番をするのが慣例になっているようです。

そのうちつまみが届き始め、座はに和やかに軽やかに。
(炉の炎でイカあぶってたりして…)

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当番の神職さんと雑談しながら、粥がコゲないように。
そのうち煮詰まってきて、粥がどろんと重くなります。
ほんの少し水を加えたり、火の加減を調節したり…ことことことこと。

米粒がほとんどなくなって、小豆の色が回り、粥が紫色になったころ
「どれ、そろそろ…」

しゃもじで釜の粥を掬って…

「どうぞ」

えっ。いただいていいの?食べていいの?

「塩があるといいですよ」
と、塩の小皿を差し出されました。

ほんのちょっと塩を粥にふって、ぺろり。
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(特別おいしいわけではないんだけど、明日の朝の占いの結果になる粥をいただくっていうのは、なんだか別のところでの味がします。)

おかゆをいただいて、明朝の神事の時刻を確認し私は帰路へ。
そのあとも筒粥殿には訪れる人がいたようでした。

翌朝、1月15日午前4:30
釜は炉から降ろされ、冷まされていました。

ヨシの筒はまだ粥の中、神職が取り出しにかかります。
TVカメラが詰めかけていたので、私のいた場所からはよく見えませんでしたが、時間がかかったあたりを見ると、ヨシの筒が壊れないように慎重に(しかも粥は幾らか固まっていただろう)取り出したに違いありません。
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三方に載せられたヨシの筒はまだ湯気をたてて、幣拝殿にはこばれていきました。
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触れ太鼓の音が鳴り、午前5:00。
さらさらと雪が降ってきました

いよいよヨシの筒を開いて、今年の農作物の豊凶と世相を占います。
権宮司が一本ずつヨシを開き、その中に詰まった粥の状態を見て結果を読み上げます。
たくさん詰まっているほどいいようですが、その明確な基準は私のようなものではわかりません。
宮司さんたちには「わかる」のだそうです。
権宮司の右には宮司が、左には記録をする神職が控え、読み上げる結果を筆で記していきます。
それぞれの傍らには小さな火鉢。暖を取るというよりはホントに指先を温める程度のものです。

いよいよ結果が読み上げられます。
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「…じょうのじょう…(略)世相、三分六厘」

幣拝殿から降ろされた筒粥を見せていただきました。
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夜明けには神職さん手描きの和紙の目録は参拝者に配布され、つつがなく神事はお納めとなりました。

今年も実り豊かなおだやかな一年になるように、願いが込められた(そして意外とアットホームな雰囲気の)神事です。
(ふり)

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