特定非営利活動法人ふじみ子育てネットワーク代表 松下妙子さんインタビュー【後編】

2017.05.29 / 人・団体・インタビュー / 編集部さん

長野県諏訪郡富士見町で、未就園児のための子育て広場、野外保育、小学生の遊び場作り等、幅広い子育て支援を行なっている「特定非営利活動法人 ふじみ子育てネットワーク(以下「ふじみ子育てネットワーク」)」の代表、松下妙子さんにインタビュー。

後半では、今注目を集める野外保育について伺います。

©︎特定非営利活動法人ふじみ子育てネットワーク

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自然の中で「自分で育つ」

 

 ー「野外保育 森のいえ”ぽっち”」はどのようにして始めたのですか?

 

「ぽっち」は、立ち上げまでの段階が二つあります。一つ目は、「子育てひろば AiAi」の活動として「おさんぽ隊」を始めたこと。

「子育てひろば AiAi」はとても自然豊かな場所にあるんですね。せっかく良い環境があるのに、ずっと部屋の中にいるのも不自然だよね、という話になったんです。もちろん、お母さんと子どもで自由に外で遊んでもらって構わないのですが、それもお母さんにとっては負担になってしまったりする。お散歩を楽しめる人もいますが、子どものお散歩に”付き合ってる”と思う人にとっては負担ですよね。

でも、みんなで行けばそういう人も楽しめるかもと考えて、スタッフも同行して近くのキャンプ場で外遊びをしよう、という「おさんぽ隊」を始めたんです。それで幼児の自然の中での過ごし方を学ぶために、野外保育の勉強を始めました。それが第一段階です。

 

もう一つは、お母さんたちからの要望があったこと。

「子育てひろば AiAi」の利用者さんに、北杜市にある”森のようちえん”(自然体験活動を軸にした保育・幼児教育)にお子さんを通わせている方がいたんです。その話を聞いたお母さんたちの間で、「いいよね、通わせたいけど遠いよね」、「じゃあ自分たちで始めない?」という話になった。

それで相談を受けたのですが、小さい子どもを育てながら自主運営は大変ですし、個人でやるよりもNPO法人がやる方が何かといいかな、と思って、ふじみ子育てネットワークとして「野外保育 森のいえ”ぽっち”」を立ち上げることにしました。

私たちも「おさんぽ隊」の活動を通して、子どもが自然の中で群れて行動することに、育ちの本質があると感じていたんです。

 

林に囲まれた「子育てひろばAiAi」。

林に囲まれた「子育てひろばAiAi」。

 

 ー「育ちの本質」とは?

 

育ちの本質って、「自分で育つ」ということだと思います。

人間はそもそも自然の一部なので、自然と同じように自分で育つ力がある。でも、自然と分断された生活の中では、子どもたちを「管理して育てる」ようになってしまうことがあります。例えば、「3歳だからこれができるように」とか、大人が考えた枠組みに合わせようとしてしまう。

野外保育は、子どもたち自身の中に育つ力があって、大人はそれを支える、という考え方です。

 

もちろん、ほったらかしという意味ではありません。生きる上では経験や知識が必要です。

大人の仕事は、経験したり、知識を身につけたりする環境を整えて、必要な時にアドバイスすること。あとは子どもが自分で考えて、周りの大人や他の子どもがやっていることを見て真似て、自分の力にしていきます。

そういうことが、自然の中だとやりやすいんですよ。多様な子どもたちの育ちに、多様な自然が応えてくれるんです。

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©️特定非営利活動法人ふじみ子育てネットワーク

 

子どもの「自分で」を大切に

 

 ー具体的には大人はどのような関わり方をしているんですか?

 

例えば、子どもが困ったことがあった時に、大人に「どうすればいい?」と聞きに来る。「こうすればいいよ」って言ってあげるのは簡単で、すぐに答えをあげた方が良い時もあるけれど、基本的には「じゃあどうすればいいと思う?」と質問返しにするんです。

それだけで、「うーん、じゃあ、こうする」って、何年かしか生きていないけど、その経験の中で自分で考えるんですね。「じゃあやってみよう」と応援すると、できることもあるけど、できないこともある。自分の実力が足りなくてできなかったり、やり方が間違っていてできなかったり。「なんでできなかったんだろう?」と聞くと、また子どもは自分で考える。

 

「もうやらない」と選択することもあって、それはそれで良いんです。経験するかどうかも、自分で決めれば良い。自分で考えて、経験して、身につける。その積み重ねで、自己肯定感が育まれていくんだと思います。自分にできることの輪郭が、自分でわかるようになります。

 

 ー子どもの力を信頼しないと、そういう関わり方はできないですよね。心配になっちゃうというか。

 

小さいからできない、大人が守ってあげなきゃいけない、と思うと、先回りして、子どもが自分で何かをする機会を奪ってしまうことがあります。

もちろん、命に関わる危険は排除しなければなりません。でも、ここで転んでも大した怪我にはならないという状況では、むしろ転んだ方が良い、と考えています。失敗した経験がないと、自分の実力の輪郭がわからないんですよ。ここまでだったら大丈夫、というラインが、経験がないと決められない。

たくさん転んでいる子は、転んでもそんなに泣きません。これくらい大丈夫って思える。でも、転び方を身につけていないと、いざ転んだ時に大怪我になる。これは、心でもそうですよ。

 

 ー心でも?どういうことでしょうか。

 

自分の気持ちをうまく伝えることができなくて、悔しい思いをしたり悲しい思いをすることってありますよね。

でも、大人が子どもたちの間を取り持ったり、気持ちを代弁するんじゃなくて、子ども自身が解決に向けて行動できるよう、導くようにしています。「ちゃんと伝わっていないみたいだから、もう一回言ってみれば?」と。

子どもたちも毎日ちょっとずつ傷つきながら、一緒にいる辛さと楽しさとを天秤にかけながら、友達と関わっていく。そんな関わり合いの中で、「こういう風に言えばいいんだ」とか、「どうもこの顔は嫌な気持ちにさせちゃったかな」とかいうことがわかるようになってくるんです。

大人が全部やってしまうと、相手の顔を見て気持ちを汲み取ることができなくなってしまいますし、自分の気持ちを伝えることもできなくなってしまいます。子どもの年齢に応じて関わり方は変わってきますが、基本的には全てのことにおいて、「自分で」が原則です。子どもの力を信じて待つことが大事ですね。

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©️特定非営利活動法人ふじみ子育てネットワーク

 

親も保育者も「子どもから学ぶ」

 

 ー子どもの力を信じて待つ・・・イライラしたり、もどかしい気持ちになることも多そうです。

 

そうですね。でも、保育をしていると、子どもを待って後悔することよりも、「先に口出ししなくてよかった、こういうことがしたかったんだね。待ってよかった」と思うことの方が多いんですよ。

具体例をいうと、みんなで出かけますよ、という時に用意が遅い子がいる。様子を見に行くと、お母さんのために摘んだ花を一生懸命束ねていて、どうすれば綺麗に持てるかを考えている最中だった。さぼってモタモタしているように見えても、近くでちゃんと見て話を聞くと、お母さんのことを想う時間だったんだね、ということがわかって。

そういうことがわかると、叱責せずに済みますよね。ただ、急がなきゃいけない状況ではあるから、「じゃあ手伝おうか?」と提案したり、他の子どもたちに伝えると、手伝いに来てくれたりもします。待たされてイライラしていたのが、みんなが満足する結果になる。

 

 ー子育て中の方へのメッセージをお願いします。

 

子どもに関するいろんな責任が自分にあると思うと、「守らなきゃ」「ちゃんとさせなきゃ」、と先回りしたくなるのは当然です。子育ての専門家が親になるわけではないのだから、親もちょっとずつ成長していけばいいと思います。私たちもまだまだ学ばなければなりません。保護者が学ぶ場や座談会も企画しています。

「子どもから学ぶ」スタンスで、一緒に学んでいけたらいいなと思っています。

 

2017年7月2日(日)に「野外保育 森の家”ぽっち”」さん主催の野外保育フォーラムが開催されます。

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詳細は「ぽっち日記」5月28日付の記事をご参照ください。
URL
http://pocchi.fukosnet.com

 

 

【団体概要】

特定非営利活動法人ふじみ子育てネットワーク

代表 松下妙子さん

所在地
〒 399-0213
長野県諏訪郡富士見町乙事1230番地研修センター
TEL 0266-62-5505

ホームページ

 

writer:及川

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