懐に秘められた祈り (下諏訪町)

2019.08.04 / 地域を知る / 編集部さん

8月1日、諏訪大社下社は夏の遷座祭「お舟祭り」でにぎわいました。
昼過ぎ、お舟に先行して春宮を出た遷座行列は滞りなく秋宮へ。
後を追う「お舟」も順調に秋宮へ曳きつけました。

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ひきつけられた「お舟」は境内を3周し、神楽殿前で停止します。
この時点で多くの人は境内を後にします。

しかし、この後も神事は続きます。

お舟の上から、「翁」「媼」(通称「ジジ」「ババ」)の人形を降ろします。
そして境内に設けられた土俵で神事角力、三番取組が行われます。
この間、お舟から降ろされた翁・媼は傍らで見守ります。
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勝者に白扇が贈られるの見届けて(今年は第三番は引き分けという珍事!)、翁媼は…

と、社務所の傍らに。
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この後、実は「翁媼焼却神事」というお舟祭り最後の神事が待っています。

ほどなくして翁と媼は、制作を奉仕した人形保存会のみなさんの手で社務所隣の控室へ持ち込まれました。
そして再登場。
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着物と面は外されます。(来年も使うのだそうです。)
と、胸元になにかお札のようなものを差しています。

お願いして近くで見せていただきました。
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稲穂、しかもまだ青々としています。
本来であれば、秋宮と春宮の間にある「御作田社」境内の斎田の稲穂を使うのですが、今年は生育不順で確保できず、やむなく別のところから確保となったそうです。
人形保存会のみなさんにうかがうと、着物を着ている間も胸元にこの稲穂は収められていたそうです。
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と、まだ熱気冷めやらぬ氏子たちの傍らをすり抜けて、焼却神事に向かいます。
置いてかれないようにしなきゃ!

斎館の脇をぬけ、かつて「御射山道」称された道をたどり、歩いて5分ほどの「内御玉戸社」に向かいます。
ここはいまや住宅地の一角となりましたが、かつて下社大祝を務めた武居氏の居館のあった場所ともされています。
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昼間も鬱蒼としたお社、今日はきれいに掃き清められています。
人形保存会のみなさんとわずかの見学者が集まりました。
神職が祝詞をあげ、最後の神事が始まります。

神職が見守る中、藁の人形姿になった翁と媼は形を崩され、藁だけ取り出されます。
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そして、提灯から忌み火をうつして焼却します。DSC_8844
翁と媼は燃え残りのないようにしっかり火を回します。
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そういえば、あの胸の、稲穂の入ったお札はどうしたんだろう。
と、気になっていましたが…
焼却の最後、2つの和紙にくるまれたような白いものを保存会のみなさんが火に入れたたのを私は見逃しませんでした。

神職さんのお話によると翁と媼、2体の人形は諏訪大社のご祭神の象徴であるとのこと。
稲穂を懐に抱き、舟にのって春宮から秋宮へ渡る夫婦神。
豊穣を願う人々の祈りを共に載せ、炎となって天に届ける一連の儀式となっていることを想像せずにはいられません。
(ふり)

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